VOICE:2001年

「対抗戦の価値」   岡田 学


 一年前のちょうど今ごろ、Voice岩田さんの文を何度も読んだのを覚えている。そして、自分は対抗戦をわかった気になっていた。でも、頭ではわかっていても、体はまったくわかっていなかった。 去年の夏合宿から俺はWTBとして思いっきりの良さを売りに一本目の座を手に入れた。そして練習試合を重ねていくごとにチームになじんでいき、トライも結構とった。自分はラグビーがうまくなったと思っていた。チームに信頼されたと思っていた。

 そして、対抗戦がはじまるやいなや、自分のへぼさと無力さで後悔の連続だった。チームの自分への信頼などまったく感じなくなってしまった。大芝さんのパスは左ウィングの俺ではなく右ウィングの藤井さんへ向けられるようになった。俺のほうに飛んできたハイパントを向井さんが取りにきた。何をしてもうまくいかず何をしても怒られた。そしていつしかおれのポジションは他の人のものになってしまっていた。

 今更ながらなぜあんなことになったのかいろいろ考えてみた。気持ちでびびっていたとか、井の中の蛙だったとか、いろいろあげようと思えばあがるだろうが、一番のところは結局、岩田さんのVoiceに書かれていることだと思う。「対抗戦に対して積み上げてきたものがなかった。」この言葉にすべてが集約されていると思う。岩田さんは「俺がした同じ過ちを繰り返してほしくない。」と付け加えていたが、岩田さんがしてしまったのとまったく同じ過ちを俺はまたしてしまったのだと思う。今年初めて対抗戦に出る西尾や悠介や小野も、もしかしたら同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。でも、絶対に繰り返してほしくないし、今なら間に合う。俺もまだまだ後輩におっきなことをいえたがらじゃないが、もっともっと練習して今年の東大ラグビー部を盛り上げていってほしい。

 俺は対抗戦で確かに惨めな思いをしたが、対抗戦は何もいやなことばかりを教えてくれたわけではなかった。対抗戦はもっとそれ以上にすばらしいことを俺に教えてくれた。それは、対抗戦で通用するプレーを間近で見ることができたことである。客席から見るのではなく同じグランドの同じ空気で体感できたことである。 -別所さん、大岡さん、小嶋さんの強いスクラム、松岡さんのラインアウトでの高さ、後藤さんのキックオフでのタックル。そして宋さんのコースどりと低いタックル、へこみさんの法政キャッチ、依田の突破。新さんの仕掛けの早さ、大芝さんのパスとキック。平田さんのカットアウト、番長のカットイン。そして藤井さんの決定力、向井さんのディフェンス- 東大は個々は弱いといわれているけれども、そんなことはまったくなかった。対抗戦に通用するプレーはそこらじゅうにころがっていた。でも対抗戦に出るまでこれっぽっちも気付かなかった。東大のプレーなんて歯が立たないと思っていた。

 今年ももう7月に入りいよいよ対抗戦という言葉が現実味を帯びてきている。俺は1月から去年の対抗戦で体感した対抗戦で通用するプレーをイメージして、ある意味、模倣して練習してきた。対抗戦のビデオもいっぱい見た。そして、去年とは比べ物にならないくらいの自信がついたと思う。今年はやってやれそうな気がする。
 俺が1年のころ番長にこんなことを言われたのを覚えている。「チーム内に同じくらいのレベルの選手がいたら学年の低いほうが使われる。若いうちに対抗戦を経験しといたほうが絶対にためになるから。」今になってやっとその本当の意味がわかったような気がする。