VOICE:2019年
  「挑戦」主将 野村湧
   
僕は明和高校時代、最上級生になるにあたってキャプテンに選ばれた。怪我をしてまだリハビリ中であった僕は不安ではあったが、それでも選んでもらったことを光栄に思い、花園出場に向けてチームを引っ張っていきたいと強く思った。しかし、結論から言うとキャプテンとしての責任は果たせなかった。チームの一番大事な時期に再び怪我をしてしまった。当然、大事な時期にキャプテンがグラウンドに立ってチームを引っ張れないことは痛い。結果、シーズン中にリーダーが何度か交代することになってしまった。そして目標には遠く及ばなかった。その中でも自分ができることはやったが、やはり「たられば」を考えては悔しさを感じた。納得いく結果を残せなかったこと、何よりキャプテンとしての責任を果たせなかったことがみんなに申し訳なく、本当に悔しかった。引退してからも悔しくて眠れなかったことや、悪夢にうなされたこともあった。その悔しさがあったからこそ、東大でもう一度新たな挑戦をしたいと思った。明和も、東大も、挑戦の本質的な意味では「恵まれたタレントや環境を持つ強い相手にどう工夫して努力して勝つか」という点で共通していると思う。もう一度そんなチャレンジをしたいという思いから、「東大ラグビー部で強い相手に挑戦する」という目標が生まれた。浪人して、その目標を強烈に意識して勉強に取り組んだ結果、合格することが出来た。新たな挑戦をする権利を得ることが出来た。そして、奇しくも高校時代と同じように怪我をしている状態の僕がここでも主将に選ばれた。高校時代のように責任を果たせられないかもしれないという不安も大きい一方で、もう一度リベンジするチャンスを与えてもらったことに感謝し、覚悟してこのチームを本当に良いチームにしたい気持ちが大きい。何より、こんな状態の僕を高校・大学と2度も主将をするチャンスをいただいたことに僕は責任を持って応えなければならないと強く思う。

 僕は東大ラグビー部で対抗戦Aへの昇格にチャレンジし、対抗戦Aで戦うことを夢みて入部した。しかし、実際に東大ラグビー部に入ってからのこの3年間、東大が勝つことの難しさを痛感させられてきた。今の東大はそのレベルには到達していないと感じた。それでも、目標を立ててやる以上は必死にやればなんとか手が届きそうな目標にしたかった。「入れ替え戦出場」は東大が降格以来一度も達成できていないが、過去には同じ国立大学の一橋も出場している、昨年の東大は明学とも渡り合うことができた、強く目標を意識して努力し続ければ不可能ではないと思った。そしてみんなで話し合った結果、今年のチームは「入れ替え戦出場」を目指すことに決めた。しかし、「入れ替え戦出場」の目標を達成することは容易ではない。実際に、東大ラグビー部は降格以来一度も辿り着いていない。例年と同じ取り組みでは絶対にたどり着けない。それでは、東大は何を強みにして戦ったらよいのか。東大生は、目標を強く意識して挑戦した経験のある集団である。だから、全員がチームの目標・個人の目標を強く意識し、チーム一丸となってそこに挑戦し続けることが、信頼あるチーム作り、そして目標達成に重要である。目標を強く意識することが、日々の練習やトレーニングの質を高め、グラウンド外での食事やケアなどの意識を向上させることにつながるのだと思う。東大ラグビー部には、そのような高い目標へ挑戦ができる環境が非常に恵まれていると思う。キャンパス内にある素晴らしいグラウンド、トップレベルの経験をもつ監督コーチ陣、OB会からの多大なる支援、多くの人からの応援や期待、など数えきれない。これらを当たり前と思わず常に感謝し、自分たちの挑戦に最大限生かしていくことができれば、東大ラグビー部の大きな武器となるだろう。だからこそ、今年は感謝の気持ちを忘れないためにも、部室やグラウンドの美化、監督コーチ陣やOBの方々との挨拶やコミュニケーションも大事にしていくべきである。それが「TRUST」の実現につながることであると考えている。

 僕の主将としての思いは、東大ラグビー部を「東大ラグビー部に関わる全ての人が誇りに思えるようなチーム」にしたいということである。誇りに思えるチームとは、ただ単に勝てるチーム、強いチームではないと思う。

 目標を強く意識し、考えて、努力して、失敗しても努力し続けて、励まし合い、高め合って、信頼し合える仲間と本気で強い相手に立ち向かい、打ち勝つこと。そのことに価値があるのだと思う。これが究極の目標・テーマである。本当に信頼し合える仲間と本気で戦えたら、たとえ負けたとしても、誰も仲間を責めたりしないし、悔しさはあったとしてもそこに後悔はないだろう。そんなチームが出来れば、東大ラグビー部は誰もが誇りに思えるチームになるだろう。

 理想のチームを目指すためには、主将としてのその道のりには困難がたくさんある。しかし、僕らには本当に多くのサポート・応援をしてくれる人たちがいる。信頼する仲間達がいる。部員みんなで共に、大きく成長して行きたい。

 信頼できる最高の仲間と、熊谷で最高の景色が見られることをイメージして、挑戦し続けよう。



2019年3月7日
東京大学運動会ラグビー部主将
野村湧