VOICE:2023年
  「求められる勝負強さ」主将 西久保拓斗
 
 正直なところ、入部前は東大ラグビー部を舐めていたのかもしれない。対抗戦Bでは、立教や明学といったチームに入替戦への壁を阻まれ、順位は中位から下位を低迷。伝統は低く刺さるタックル。これくらいが事前に知っていた情報だった。経験や体格で劣るガリ勉集団でも知恵と工夫を使って、いわゆるラグビー強豪校に立ち向かおうとしているのだろうと思っていた。


 実際に会った東大の選手は想像の10倍はデカかった。タンクトップが似合うような逞しい腕を持つ先輩、腹筋がバキバキに割れている先輩、おもりでしなるバーをスクワットで楽々と挙上する先輩。そのどれもが自分にとっては新鮮な感覚だった。自分の勝手な思い込みとは違い、東大はフィジカル強化にも全力だった。ガリ勉どころか勉強を犠牲にしてウエイトに捧げる人もいた。未経験者からでも強度の高い大学ラグビーで活躍できるためのサポート体制が、栄養・S&Cの面において敷かれていた。相手校の分析や新入生の勧誘ももちろん手を抜かない。

 何より密度の濃い練習が東大の強みだ。特に春の練習はキツい。この練習を越えれば強くなるとは頭で分かっていても、やめたくなるほどの過酷なものである。それでも仲間を鼓舞してこの試練を乗り越える。入替戦出場という目標に対して真摯に向き合っているからだと思う。

 東大は着実に強くなっていると信じている。それを支えるための環境、仲間が揃っているはずだ。

 だが入替戦をかけた勝負にはことごとく負けた。体格も決して劣らない、格上でもない相手に対してである。この勝負弱さには一体何が起こっているのか。

 これは完全に自論であるが、東大は「勝たなきゃいけない」というプレッシャーに自滅してしまっているのではないか。東大ラグビー部の強さを支えるものの一つが、一人一人が養うファイティングスピリッツであることに間違いないはずだ。命を懸けてまで相手に立ち向かう精神を持とうとしない人間は、グラウンドに立つ者としての責任を果たせていない。そして自分は思う。そんな命懸けの勝負をプレッシャーに感じ、自分の殻に閉じこもってしまう選手は決して良い選手にはなれないと。

 自分史上最低のパフォーマンスをした試合と言えば、2年前の対抗戦初戦、上智戦だろう。絶対に負けられない、先輩に迷惑はかけられないとばかり意気込んで、いつの間にか顔面蒼白に。全く体が動かなかったことしか記憶にない。後輩のみんなには是非自分の体験を反面教師にして、命を懸けた勝負、そんなラグビーの醍醐味を心から楽しんでほしいと思っている。

2023年2月5日
東京大学運動会ラグビー部主将
西久保拓斗